Lesson3-8 様々な思想と片付け

片付けと思想

これまで、Lesson3では片付けに関係する思想について、有名なものを一通り確認出来るようご紹介してきました。

分類法

グルーピングやセパレーション、セグメンテーションなど、日本の分類の世界ではあまり使われていない概念を用いて「片付け」をより分かりやすく、実践的なものに洗練していく。

パレートの法則

経済学の法則から、およそ8割のものは全体の主要な部分を締めないという普遍的な法則を理解することで、ものを必要と不要とに分ける一助とする。

アルゴリズム

コンピュータの世界で発展してきた考え方を応用し、片付けを一連の流れの中でスムーズに行えるよう、ひとかたまりの手順として自分の身体に叩き込む。

ミニマリズム

美術や建築、音楽の世界で盛り上がった「最小限のもので最大限の効果を」上げようとする態度を片付けにも適用し、シンプルな生き方を実践する。

もったいない

世界に広がる「もったいない」の概念に縛られて不要物をいつまでも手元に置いておくという悪い結果を招かないように、部屋や住居に対して「もったいない」の考えを適用することで、不要なものを手元に置こうとする執着心と決別する。

これらの思想は「片付けを支えるバックボーン」とも言える思想です。しかし、片付けの本質とは、所有物を整理して余分なものを捨て、ものを収めるべき場所に戻していく、という頭と手を使う作業に過ぎません。そこにヨガの思想や禅、西洋の様々な分類法や経済学の法則、世界に広がる「もったいない」の思想などが入り込む余地はないように思えます。

それでも片付け術や整理術の本では、これらの考え方が触れられないことはありません。

法則や思想から片付けのヒントを得る

なぜ私たちは片付けを通して大仰な思想に触れるのでしょうか?その理由は大きく分けて2つ存在します。

1つ目の理由は至ってシンプルです。このLessonでも何度か触れてきましたが、そのような思想や法則を理解することが「片付け」に役に立つからです。

中でも「パレートの法則」はその最たるものと言えるでしょう。私たちの世界を回す経済活動は全体のおよそ2割が担っていますから、経済面だけ見れば、人間のおよそ8割は不要です。しかし、不要だからといって世界人口の8割を減らしてしまうわけにはいきません。

しかし「パレートの法則」はとても普遍的な性質を持ち、私たちの持ち物にさえ適用可能です。そこから考えると、持ち物のおよそ8割は不要だということになりますから、「なにを捨てたらいいか」は難しくとも「どれだけ捨てればいいか」という問題には簡単に答えが出せるわけですね。そう、「物は8割ほど捨てるべきである」と。もちろんその数字は必ずしも万人に当てはまるとは限りませんが、基準を設定する段階では大変重宝します。

また「ミニマリズム」のように、その思想そのものはあくまで考え方の一つであっても、思想から導かれるように生み出された建築物やデザインから「私たちはものをここまで捨ててもいいんだ」と気付きを得ることができます。プロのデザインは細部まで精緻に考えられたものばかりですので、注意深く眺めているだけでも、不要なものをそぎ落としていく感覚を学べてしまいます。インテリア雑誌を部屋のレイアウトの参考にするようなものですね。

片付けを通じて生き方を変える

2つ目の理由はもう少しスピリチュアルなものです。

日常的な動作を突き詰めていくことで、より深い思想や発想に到達する可能性があります。といっても分かりにくいかもしれませんから、いまいちピンと来ない方は座禅を想像してみてください。お寺の縁側や部屋の中に並んで足を組み、精神統一をする。集中力を欠いてしまった場合は警策(けいさく)という棒でぽんと叩かれて注意されてしまいます。

座禅は禅宗の提唱する修行の一つですが、よく考えたらおかしな話でもあります。座って足を組んで瞑想するというのは誰にでも、場所さえ選ぶことなくできることであり、特別な修行という感覚はありません。しかし「ただ座るだけ」に見える行為でも、突き詰めれば修行として成立するのです。

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片付けにも同じことが言えます。不要なものを捨てる、部屋を片付ける、あるべきものをあるべき場所に戻す。これは何一つ特別なことではなく、快適に生活したいという現世利益に基づく行為ですから、ある意味では修行のような高潔さはありません。それでも「これは必要か、それとも要らないものか」と考えること。「どう収納したら綺麗に片付くか」と頭を働かせることで、今まで触れて来なかった発想に触れられたり、柔軟な発想が出てくるようになります。

部屋を片付けるのはただ生活を楽にし、時間とお金、心の余裕を生むだけではありません。片付け術の実践を通じて生活を見直したり悪い執着を捨てたりできれば、今までよりいっそう澄んだ心で生活を営むことができるようになります。

綺麗で片付いている部屋に住んでいる方は、まず当たり前のこととしてだらしなさとは無縁です。それだけでなく、いつ訪れても落ち着いていて、実におおらかであったり、気前の良さを持ち合わせていたりします。私たちはその部屋の美しさのみならず、部屋の主の心根にも惹かれて良い印象を持ち、あんな風になりたいと夢見るようになるのですね。

片付けは人を変えます。もしあなたが魅力的な人になりたいと願うなら、片付け術や整理術を身に着けるのは良い選択である、と断言して構わないでしょう。