Lesson3-4 パレートの法則

経済学の法則を扱う

Lesson3の序盤で紹介した通り、パレートの法則とはイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートの発見した経済学の法則のことです。その内容は「経済において全体の数値の大半は、全体を構成する内のごく一部が生み出している」というもの。一般には80:20の法則ばらつきの法則とも呼ばれます。

具体例としてはスマートフォンなどで提供されるソーシャルゲームなどを見てみるのが良いでしょうか。昨今では「基本無料でプレイ出来るが、目当てのキャラクターやアイテムを出すためにはガチャを引かなければならない」といったゲームがたくさん出ています。ゲームを楽しむためには少額の課金でも問題ないのですが、極めようとすると一月に何十万、何百万も課金しなければなりません。そしてゲームの運営は、全体から見ればほんの数パーセントでしかない重課金者層によって成り立っていることが多いようです。これがパレートの法則です。

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パレートの法則の面白いところは経済学以外でも応用が利きやすいところですね。ビジネスにおける売り上げの80%は全顧客の20%が生み出している、売り上げの8割は全従業員のうち2割が生み出している、仕事の成果は費やした時間の20%でほぼ完成している……もちろん中にはその割合が正しくない場合もありますが、様々な分野でこれが当てはまるシーンが散見されます。

もちろん片付け術や整理術にもパレートの法則を適用することはできます。

整理術とパレートの法則

整理術にパレートの法則を適用すると、所有物の中に本当に必要なものは2割しかない、という仮説が組み立てられます。実際に「絶対に捨ててはいけない」ものをのぞくと、部屋の中にあるもののおよそ8割は捨てられてしまうということがあるのです。人間が常に意識しておける所有物は全体の2割ほどしかない、ということなのかもしれませんね。

パレートの法則を適用した整理術は以下のようなものです。

所有物の8割を思い切って捨てる

お部屋の整理をするときに所有物を必要なものと不要なものにわけ、不要なものを積極的に捨てるべきである、という話は以前のLessonでも解説した通りです。「絶対に必要」と「いざという時は捨てても良い」に分類するのは一見簡単そうですが、実際には愛着のある記念品などをなかなか捨てられないものです。

人間は基準を作らずに行動するのが苦手な生き物です。所持品を必要なものと不要なものに分けましょう!と言われても、「これは捨ててもいいのだろうか」と迷った挙句に何一つ捨てられない、なんてことがあるものです。そういうときは、パレートの法則を適用しましょう。そう、所持品の8割を「不要」として処理するまで整理を行うのです。

いちどパレートの法則を利用して基準を作ってしまえばあとは楽なものです。あなたの頭は「どうやったら8割に近付けるのか」ということを考え出すので、上手く理屈をつけてものを捨てることが出来るようになるわけです。

収納術とパレートの法則

一方で、収納術の方にパレートの法則を適用するのは若干難しいものがありますが、ちゃんとやり方が存在します。それは、お部屋の面積あるいは容積を計算し、その2割以内にすべてのものが収まるように配置をする、というものです。

収納の苦手な人にありがちなことですが、私たちは空いているスペースを見つけたらそこを埋めてしまおうと考えがちです。あまり考えずにものを置いていくと、最初に部屋の四隅が埋まり、続いて壁が本棚やキャビネットで埋まる……という具合に部屋の外周からどんどん狭まっていきます。

それを防ぐために、まずは部屋の面積を調べましょう。もしあなたの借りている部屋が10畳であれば、必要なものは押入れを除けば2畳分のスペースにまとめてしまいます。

説明だけ聞くと簡単そうですが、この制限はシビアです。試しに部屋を四分割してみてください。その中に必要なものが全て収まるでしょうか? 賃貸の一部屋を借りて必要なものを全て一部屋に置いている、という暮らし方をしている場合は、ベッドと本棚、机だけでほぼはみ出てしまい、他のものを置く余裕がありません。

収納術におけるパレートの法則は、たとえば一軒家にお住まいの方がリビングやキッチンを整理するときに適用すると丁度良いでしょう。各部屋に必要なものを分散して置ける場合は、各部屋ごとに8割のスペースを確保することは可能です。

また、賃貸で1部屋しか借りていないような場合は、ベッドだけを度外視するのがコツです。そうすると、どうしても必要な机やテレビ台、くつろぐためのソファなどにスペースを割いたとしても、およそ8割のスペースを確保することが出来るようになります。

もし確保できない場合は、不要なものがたくさんあるか、収納に問題があるかのいずれかです。自分の片付け術を見つめ直すいい機会ですので、まずは所有物が部屋の何割を占めているか計算してみると良いでしょう。

類例

パレートの法則には他にも類例があるので、もし片付け術に適用できそうなものがあるのでしたら、そちらから引っ張ってくるのも面白いでしょう。

たとえば、言語学にはジップの法則というものがあります。これは英語の単語の出現頻度と出現順位に関する法則でして、k番目に出現頻度の高い単語は1番多く現れる単語のk分の1の確率で現れるというものです。たとえば、英語で二番目に出現頻度の高い”of”という単語は一番出現頻度の高い”the”の1/2の確率で現れます。

これを整理術に応用すると「使用頻度が高い順にランク付けしていくと、ほとんどのものは全く使用しないことが分かる」ので、捨てる際のためらいをある程度軽減することができます。

ちなみに作家のシオドア・スタージョンが唱えた「スタージョンの法則」というものもありあす。「どんなものもその90%はカスである」として、不当にSFを貶める人たちからSFを守ろうとしたのです。どんなものでも90%はゴミなのでたとえSFの多くがゴミであったとしてもそれは他のあらゆるものと同じことですよ、という擁護のやり方ですね。

もっとも、スタージョンの法則と書かれた場合、一般的には「90%はゴミ」ではなく「常に絶対的にそうであるものは、存在しない」という彼の格言を意味することが多いようです。まあスタージョンの法則はともかくとして、このLesson3-4の内容を一言でまとめてしまえばこんな風になるでしょうか。

所有物の8割を捨て、部屋を8割空きスペースにしましょう。

これを実行できれば一気に片付けが楽になります。