片付け術には古来より根付いてきた思想や学問的な用語を用いるものもあります。たとえば2010年に大流行した「断捨離」という言葉は、やましたひでこさんという片付けのプロの考案した思想ですが、着想自体は古代インドの宗教的な行法であるヨーガから来ています。
仏教では捨て去るべき執着のことを「愛」と呼ぶのは有名な話ですが、捨て去るべきものはそれだけではありません。俗世を離れるためにはさまざまなものを捨てなければならないわけで、そのための修行や考え方が何千年もの間受け継がれてきたわけです。
片付けの歴史は古く、このような思想に支えられてきた面は大きいのですが、それとは逆に古来からある思想や学問的な論理をバックボーンとすることで、確かな方法論を構築していくこともあります。それもまた、片付け術なのです。
分類法
一言で「分類学」と言った場合は、生物学の分類に関する学問を意味します。哺乳類とか節足動物といった命名規則に関する学問ですね。
このことから分かるように、分類の方法そのものは学問的に研究されているわけではありません。各学問がその学問の中で扱われるものを体系的にまとめたり分類したりしています。一方で、分類そのものは様々な場所で使われています。図書館の本の分類などに使われている図書分類法などが良い例でしょう。
西洋には分類に関する単語が沢山あります。グルーピング(grouping)、セパレーション(separation)、オーディネーション(ordination)、クラシフィケーション(classification)といった単語はそれぞれ意味する内容も異なりますので、日本人にはなかなか受け入れ難いものがあります。
片付け術を学ぶ際は、この分類の細かな違いを意識しておくとよいでしょう。
グルーピング
これは非常に分かりやすい分類法ですね。同じ種類のものを一つ、あるいは一か所にまとめることをグルーピングと言います。ものに対してのみ適用できる概念ではなく、たとえば様々な料理を「和食」「洋食」「中華料理」と分類するのも立派なグルーピングです。
収納術におけるグルーピングとは、「本というグループはひとまとめにして本棚に並べる」「食器類は食器棚に一括して置く」といったもので、普段私たちが何気なく行っていることでもあります。他方、「文章を書くための道具」をひとまとめにするといったグルーピングの方法も存在します。

たとえば、絵を描く仕事に就いている方が、画材や布、消しゴムや食パンなどを一つの場所に置いたり、道具入れの中にまとめているのもグルーピングと言えます。
セパレーション
separationとはもともと分離、別離といった意味であり、本来1つであったものを2つ以上に分離することを指します。色彩学やカラーコーディネートで、色と色の間に他の色を入れて調和を取ることを意味する用語でもありますね。
収納術においては、大きな空間を区切ることで物を置きやすくしたり使いやすくしたりする、といった形でこの考え方を適用できます。たとえば、広い部屋を片方は落ち着く色合いにして、もう片方は明るい色合いにすることで、寝るスペースと趣味のスペースを分けます。そうして寝るスペースに寝具を、趣味のスペースに仕事道具や遊び道具を置く、といった発想が出来るようになります。
どちらかと言えば部屋を片付ける方法ではなく、綺麗な部屋を思い浮かぶ方法として捉えた方が良いでしょう。
セグメンテーション
segmentationはマーケティング用語として使われることが多いですね。市場を顧客の行動パターンから四つの層に分解して捉えるものです。イリノイ大学のベル教授によれば、消費者は高額な商品を買う富裕なスキミング層、富裕層を意識するイノベーター層、同じくらいの生活を送る人々を意識するフォロア層、最も数が多く価格の変動に注視するペネトレーション層、という風に分かれています。
こう書かれても分かりにくいかと思いますので、お寿司に喩えてみましょう。回らない寿司屋で板前の薦める新鮮なネタを楽しむのがスキミング層、ランチで良いお寿司屋さんに入り手ごろな価格の握りずしやちらし寿司を頼むのがイノベーター層、回転ずしに行ったりスーパーで寿司を買うのがフォロア層、半額になった寿司を狙うのがペネトレーション層です。
セグメンテーションとはこのような顧客の分類に合わせて適切な販売戦略を採りましょう、というマーケティングの分類法です。片付けや収納には応用し辛い考え方のように思われますが、所有物に対するアプローチを細かく分けるという形で適用することが出来ます。
たとえば、所有物を「絶対に必要なもの」「なるべく手元に置いておきたいもの」「いざとなれば買い替えたり手放したり出来るもの」「いつ捨てても構わないもの」と四つに分類するのがセグメンテーションを利用した整理法が存在します。
生活必需品の多くはすぐに再入手できるので「いつ捨てても構わない」、貴重品や領収書は保存しておかなければならないので「絶対に必要なもの」という風に分類することができます。最下層のものは毎日の掃除で捨てる、買い替え可能なものは週一回の掃除の度に捨てるかどうか検討する、という具合に機械的に対応を決めると、比較的楽に物を整理することが出来ます。
分類法には他にもソーテーション、クラシフィケーションといった整理術に応用出来そうな考え方がたくさんあります。気になった分類法を調べてあなただけのオリジナル整理術を編み出す! といった使い方も出来そうですね。