片付けられないのは理由がある
Introductionでもご紹介した通り、人間は生まれながらにして部屋を片付けることのできる生き物ではありません。片付けは常に心理的な問題とセットになっており、そこに片付けそのもののテクニックの有無も絡んできます。
このLessonでは、私たちが「片付け」を苦手とする理由を分析し、心理的/技術的な側面から紐解いていきます。手始めに、Lesson1-1~1-3では心理面の問題を見ていきましょう。
片付けのイメージが見えない
片付けで一番最初につまづくポイントはどこでしょう?
こう問いかけると、「物を捨てるか残すかの判断に困る」「ゴミの出し方がいまいちよく分からない」「どこに物を移動したら良いのか分からない」「片付け始めるとついつい途中で発掘したマンガを読み始めてしまう」といった様々な問題が思い浮かびますが、実は私たちはそれ以前の段階でつまづいていることが多いのです。
では、それ以前の段階とはなんでしょうか?
それは「片付けのイメージがない」段階、もっと踏み込んで言えば、「片付いた部屋のイメージがない」段階です。
引っ越し直後の綺麗な部屋を想像するのは簡単で、誰でもできるものですが、自分にとって必要な家具や所持品が適切に配置されている状態――すなわち「完璧に片付いている状態」を想像するのは、実はとても難しいことなのです。

私たちは自分の想像力を過大評価しがちな傾向にあります。
たしかに、下の段の段ボールを抜いたら上に載ったものがどうなるか、という単純な力学的な問題なら具体的に想像するのは容易いでしょう。物理学を学ばなくとも日々の経験から子供でもイメージ出来るようになることです。
しかし、他人の気持ちを推し量ったり、理想的な人間関係を想像するのはとても難しいことです。あなたが中高生の頃、果たして将来の自分の姿を明確に想像できていた友人はいたでしょうか? 庭に埋めたタイムカプセルの中から出て来た未来の手紙は、今のあなたの様子を正確に言い当てていますか?
19世紀ドイツ(プロイセン)の名宰相ビスマルクの発言を元にした格言として「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というものがあります。人は体験や経験から将来を想像してしまいがちな生き物です。したがって、綺麗な部屋に住んだことのない人は、綺麗な部屋、片付いている部屋、自分の理想とする部屋を想像することができません。一般には片付け術の本ではあまり触れられないことですが、部屋を片付けられない方の多くはここでつまづいています。
片付いた部屋をイメージできますか?
片付けが出来ない方、部屋を綺麗にしたいのに全く上手くいかない方は、まず自分が「綺麗な部屋を想像できるかどうか」を確認しましょう。以下のチェックリストに3つ以上引っかかる方は要注意です。
- 引っ越し直後のまっさらな部屋の状態を想像できない
- 机やテーブル、本棚といった家具の配置をイメージできない
- キッチンの棚に何が仕舞ってあるか分からない
- 自分の部屋に足りないもの、多過ぎるものをそれぞれ列挙できない
- タンスや押し入れの中に「一年以上使わなかったもの」がどれだけ入っているか分からない
- 洋風、和風問わずインテリア雑誌の写真のような部屋を思い浮かべられない
- 綺麗な部屋に住んでいる自分が想像できない
いかがでしょうか。普段から不要なものがスペースを圧迫していると、自分の住んでいる部屋の本当の広さはなかなか想像できないものです。また、家具の配置をきちんとイメージできなければ、どこに物を置くかも決められませんし、綺麗な部屋に住む自分の姿が見えなければ片付けをするためのモチベーションも湧いてきません。
少し工学的な言葉で言い換えると、自分の部屋をイメージできない人は、完成予想図とか設計図といったものを持っていないのです。何となく漠然と「このような部屋にする」というイメージはあるかもしれませんが、それは設計図ではありません。厳しい言い方をしてしまえば設計図未満の落書きです。物作りに携わったことのある方ならご想像いただけると思いますが、落書きからちゃんとしたものを作るのは不可能と言っても過言ではありません。
したがって、綺麗な部屋をイメージできない人は、まず「どのような部屋に住みたいか」という設計図を作ることから始めましょう。
綺麗な部屋のイメージを作る
イメージを作るためには材料が必要です。まずはインテリア雑誌でもインターネットでも友人の部屋でも構いませんので、自分が住みたいと感じる部屋の様子をじっくりと観察しましょう。
次に行うのは所持品の分析です。あなたがいいと感じた部屋にはどのような家具があるか、どのような製品が置かれているかをリストアップしていきます。ベッド、テレビ、エアコン、本棚、パソコンやプリンター、電子レンジやキッチン戸棚……それらを表にまとめてみます。可能であれば、本やCD/DVD、洋服の数なども数えてメモしておきましょう。細かい情報はイメージをより完成度の高いものにします。
綺麗な部屋のイメージを形作ったら、今度は自分がその部屋の中で暮らしている姿を想像してみてください。その際は「朝起きてから出勤するまで」「仕事が終わって帰宅してから寝るまで」と「休日の過ごし方」の三つを強く思い描くと良いでしょう。
たとえば、朝起きてパンとコーヒー、ゆで卵の準備をする。ニュースを見ながら朝食。身支度を整えて仕事着に着替えて出勤……という流れを想像した部屋の中で行ってみます。洗面台のコップの配置などはそう細かに考える必要はありませんが、どこかに引っかかるところがあれば、それはまだ自分が理想の部屋をイメージできていない証左です。想像した部屋の中でスムーズに生活できるようになるまで、時間をかけてイメージトレーニングを行いましょう。
さて、ここまで来ると大事なことに気が付くはずです。
想像してみた理想の部屋と自分の部屋を見比べてみましょう。お気づきでしょうか。あなたの部屋にはビックリするほどたくさんの「理想の部屋にはあるはずのないもの」があります。リストアップしたものと自分の部屋の状態を見たらよりはっきりと分かるはずです。
「余計なものが多過ぎる!」
というわけで、次のLessonでは「いらないものを捨てる」ことについて考えていきましょう。