全てのものは必要である
この世の中、完全にいらないものなどなかなかお目にかかれないものです。必ずしも全てのものに当てはまるわけではありませんが、大体のものは必要があるから作られているわけですから、持ち主の生活次第ではすべてのものが「必要」であるとも言えます。
ものを捨てるのが難しいのはこの点です。「世の中に不必要なものなんてない」確かに素晴らしい考えです。不要なものなどないわけですから、いつか使う日が来るかもしれないと考えると、つい手元に置いておきたくなってしまうのです。備えあれば憂いなし、という考え方ですね。
しかし……
- 一度読んで感動した本
- 次のシーズンに着るかもしれない洋服
- ジムに通うために買ったスニーカー
- 滅多に乗らない自転車の空気入れ
- 友人からの旅行のお土産
- 滅多に焼かないケーキのための型抜き
- データをパソコンにインポートし終えた音楽CD
これらは本当に必要でしょうか?
捨ててもいい、という気持ち
片付けの大敵は、この「いつか使う日が来るかもしれない」という気持ちです。確かに備えあれば憂いはありませんが、実を言うと、先に挙げたものを再利用するケースは稀です。大体のものは引っ越しまで同じ場所に置かれ続けるだけです。
Introductionでも説明した通り、本はよほどの稀覯本でもない限り今では電子書籍がありますし、図書館でも借りることが出来ます(雑誌のバックナンバーを置いている図書館もたくさんありますね)。洋服は次のシーズンには着られなくなっている可能性が高く、新しい素敵な服に目移りすることも多いでしょう。
ジムに通うためのスポーツ用品とか、滅多に作らない料理のための調理器具は、確かに自分を高めるためには持っておくべきものかもしれません。ひょっとしたらジムに通うようになるかもしれませんし、道具があるから料理を作る、という形できっかけになることもあります。しかし、トレーニング用品はいざとなればレンタルも可能な場合が多いものですし、お料理に関してもちょっとした道具なら数百円~数千円で買えてしまいます。捨てたとしても再入手はさほど困難ではありません。
パソコンにインポートした音楽CDなどは元の音質で聴きたい方向けですが、オーディオ機器を揃えるようなマニアでもない限り、パソコンの音質でもあまり気にならないものですし、映画もレンタルなり映画配信チャンネルへの登録で観ようと思えば観られます。そういったものはお金を払うことで「体験」を購入したと考えると良いでしょう。
友人が旅先で見つけたお土産などは、もし気に入っているのであればインテリアとして飾りましょう。しかし友人のことを常に意識する必要はありません。友人自身、自分がそんなお土産を買ったことなんてそうそう覚えていないものです。他人は自分が思うほどには自分のことを気にしていないものだ、と考えると気分が楽になります。
日用品も足りなくなったときに買いに行けばよい話です。こう書くと、中には
「日用品を手元に置いておくことで買いに行く時間や手間を節約している」
とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。もちろんその考え方は間違いではありませんが、ちょっと発想をさかさまにして見て下さい。
「日用品を買いに行く手間や時間と引き換えに、置いておくためのスペースを空けられる」
そう考えると、あまり高い買い物ではないことにお気づきいただけるでしょうか。
場所は金なり
のちのLessonでも触れますが、物を置けば保管するためのコストが発生してしまいます。参考までに2016年の東京23区の土地代を見てみましょう。1㎡あたり129万7464円という数字が出てくるはずです。1㎡は畳半畳よりちょっと広いくらいですが、日用品を置けば容易に埋め尽くされてしまう程度のスペースでもあります。
もしあなたが東京に家を買い、畳半畳分程度の日用品……たとえば、トイレットペーパーなどの消耗品や滅多に使わない香辛料、電球が切れたときのための予備、ガーデニングのための軍手の束などを放り込んだままにしておいたとすると、それらの維持費としておよそ130万円ほど支払っている計算になります。
もちろん、縦の空間を利用してスペースを開けることも出来るわけですし、13年同じ場所に住み続けるなら一年の維持コストは10万円程度まで下がります。時は金なり、という考え方をするなら、それらをいつでも取り出せる状態にすることで短縮できる時間に10万円以上の価値があるかもしれません。
品物によってはなかなか取り扱っているお店がないという場合もあるでしょうし、防災グッズのように使用頻度が低くとも維持コストをかけるべきものも当然あります。ですが、コンビニで買えるようなものに年間数万円の場所代を支払うべきでしょうか?
「時は金なり」という考え方が正しいのは誰の目にも明らかです。しかし、時間という資産を手に入れるために「場所代」を支払うとすると、さてこの場合はどちらが正しいのでしょうか。これはなかなか難しい問題です。各人の置かれた状況によっても答えは異なります。

一番近い店舗へ行くのに車で30分ほどかかる、という場合は相対的に土地も安いでしょうし、日用品を保管しておくためのスペースを十分に取っておく方が安上がりになるでしょう。一方、徒歩数分圏内にコンビニやスーパーマーケットがあるなら、わざわざ日用品を置いておくより広々とスペースを使う方が快適になりそうです。
物を所有するには何らかのコストがかかります。時間と空間のどちらを支払うかは人によりけりですが、仮に直接目に見えなかったとしても、必ず何かしらのコストを支払っているのです。
このような観点に立てば、物を捨てるのは場所代の削減という風に言い換えることもできます。もし1㎡分の「無駄なもの」を捨てることが出来たら、130万円ほどの場所代を他のもっと有用なもののために使えるようになる。そう考えると、物を捨てるだけで得した気分になれたりしませんか?